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東京家庭裁判所 平成5年(少)2441号 決定 1993年5月26日

少年 Z・K(昭48.7.10生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、法定の除外事由がないのに、平成5年4月上旬頃から同年4月22日までの間に、千葉県内又はその周辺某所において、覚醒剤であるフェニルメチルアミノプロパンを含有する水溶液若干量を自己の身体に注射する等の方法により、覚せい剤を使用したものである。

(法令の適用)

覚せい剤取締法第19条、第41条の3第1項第1号

(処遇の理由)

1  少年は昭和48年7月10日に出生し、地元の小、中学校を卒業して、専門学校に進学したが、2ケ月位通学しただけで、その翌年1月には中退した。

以後、親の監護に服することなく、家出を繰り返し、平成3年5月、千葉市内のスナックで稼働していた折、客として来たAと知り合い、立川市内に住居を定めて同棲するようになったが、鳶職をしていたAが失業したことから、職を探して千葉県内を転々としていた。

少年は平成4年5月頃からAの勧めで覚醒剤を使用するようになり(Aは以前から使用していた。)、平成5年1月頃からは毎日使用していた。

2  少年は、その小、中学校時代に所謂苛めにあうことが多かったこと、母が神経症で入、退院を繰り返し、少年の目には母は家事を何もせず、そのために幼い時から自分が家事をさせられる羽目になったのに、父はそんな母の味方をするだけで自分のことを理解しようとしないと映っていたことなどから、家庭にも社会にも自分が安定する場を見出すことができず、自分は家庭にも社会にも受け入れられていない、疎外され易い存在だとの被害感情が強く、他人に対する信頼感を持ち難く、安定して対等な対人関係を築く力が身に付いておらず、その一方で、主体性、自律性が十分でなく、主体的、自律的に現在の生活を立て直す意欲に乏しい(このようなことから、自分を受け入れてくれる者を強く求めていた中でAと会い、同人はありのままの自分を受け入れて呉れると感じたことから、同人への依存を強め、誘われるままに無批判に追従して覚醒剤を使用するようになった。)。

3  以上の諸事情を勘案すると、少年に対しては、その内面に目を向けさせ、現実を正しく認識する能力を養わさせ、安定して対等な対人関係を築く力を養い、主体的、自律的に生活を立て直す意欲を持たせるようにすることが不可欠であり、その為には、矯正施設に収容して、矯正教育を施すことが必要である。

4  よって、少年法第24条第1項第3号、少年審判規則第37条第1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 田中優)

〔参考1〕処遇勧告書<省略>

〔参考2〕抗告審(東京高平5(く)116号 平5.6.25決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年が提出した抗告申立書に記載されたとおりであって、その主張するところは、要するに、少年を医療少年院に送致した原決定の処分は重すぎて著しく不当であるというのである。

しかしながら、記録を調査し検討すると、原決定が「処遇の理由」の項において説示する理由により少年を医療少年院に送致した処分は、当裁判所においても相当として是認することができる。

すなわち、一件記録によると、本件は、少年が、覚せい剤を自己使用した事案であるが、約一年間にわたり覚せい剤を使用した結果、幻覚、妄想が現われるまでに至っており、少年と覚せい剤との関わりは深いこと、少年は、父母との折り合いが悪く、たびたび家出を繰り返した末、平成3年5月、家出中に、Aと知り合い、間もなく同人と同棲し、同人の誘いに応じて覚せいを一緒に使用するようになったものであるが、疎外感や被害感情を持ちやすい反面、自分を受容してくれる人には無批判に追従するなど、対等な対人関係を形成する力や主体性、自律性に乏しいという性格上の難点を有していること、少年の両親は、少年に対する愛情を失っていないものの、これに十分な監護を期待することは困難であることなどの事情が認められる。

そうすると、少年に保護処分歴がないこと、少年の反省状況などを十分考慮しても、少年に対し、専門家による施設内矯正教育の機会を与え、これを通して覚せい剤との絶縁、両親との関係の調整及び性格の矯正を図らせることが少年の将来にとって必須であると考えられる。したがって、少年の胸痛等の精密検査や治療の必要性を考慮し、その終了後は中等少年院に移送すべきことを勧告して、少年を医療少年院に送致した原決定は相当であって、これが著しく不当であるとは認められない。

よって、本件抗告は理由がないから、少年法33条1項、少年審判規則50条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 花尻尚 裁判官 長島孝太郎飯田喜信)

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